大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1202号 判決

控訴人

小沢真治

佐藤覚次郎

被抗訴人

協和商事株式会社

右代理人支配人

関口和夫

参加人

西島成晃

右訴訟代理人

中山貞愛

主文

一1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、控訴人小沢に対し金七二、六四七円、控訴人佐藤に対し金一二〇、〇九九円、及び右各金員に対する昭和四八年一〇月九日から各支払ずみにいたるまで年五分の割合による各金員を、各支払え。

3  控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  被控訴人は、参加人に対し金一二九、二七五円及びこれに対する昭和四九年五月一七日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用中参加によつて生じた費用は被控訴人の負担とし、その余の費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その三を控訴人ら、その一を被控訴人の各負担とする。

四  この判決は、主文第一2項、第二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一、控訴人両名

(一)  原判決を左の通り変更する。

(二)  被控訴人は、控訴人小沢に対し金七二、六四七円、控訴人佐藤に対し金一二〇、〇九九円と、各右金員に対する昭和四八年一〇月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行の宣言。

二、被控訴人

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  当事者参加人の請求を棄却する。

三、当事者参加人

(一)  被控訴人は参加人に対し、金一二九、二七五円及びこれに対する昭和四九年五月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

第二  参加人の参加について

控訴人両名及び被控訴人は、いずれも異議をのべない旨のべた。

第三  主張

一、請求原因(控訴人両名及び参加人に共通)

(一)  控訴人小沢は、債務者山城康彦所有の原判決物件目録記載の不動産につき静岡地方裁判所に対し強制競売の申立をした債権者であり、控訴人佐藤及び参加人は、いずれも次項にのべる競売期日までに配当を要求した債権者である。そして、以上三名の債務者に対する各債権額は、別紙第一表の各人の債権額記載のとおりである。

(二)  右競売事件につき、昭和四八年五月二三日午前一〇時競売期日が開かれ、被控訴人は、代金三、五一二、〇〇〇円で前記不動産を競落し、同月三〇日に競落許可決定がなされ、同決定は同年六月六日に確定した。

(三)  右売得金の配当期日が同年七月一〇日と定められ、被控訴人は競落代金を同年六月二二日までに支払うよう催告されたが、これを履行しなかつた。

(四)  そこで、同年七月二五日午前一〇時に再競売期日が開かれ、訴外黒田敏が代金二、七一五、〇〇〇円で競落し、同年八月一日に競落許可決定がなされ、同決定は同月八日確定した。

(五)  右裁判所は、同年九月一〇日午後一時右売得金の配当期日を開き、右売得金に被控訴人の競買保証金四〇万円を加え、これから執行費用一〇一、九三六円を差引いた残額三、〇一三、〇六四円を配当する旨別紙第一表記載の内容の配当表を作成した。

(六)  被控訴人は、自己の競落代価と再競落代価との差額七九七、〇〇〇円から競買保証金四〇〇、〇〇〇円を差引いた残金三九七、〇〇〇円に再競売費用三五、七〇〇円を加算した四三二、七〇〇円を、民事訴訟法の規定によつて控訴人両名、参加人らに支払うべき義務がある。なお、別紙第一表記載のとおり控訴人両名と参加人のほかに二名の配当要求債権者が居るが、そのうち望月啓司は昭和四八年七月二三日に至つて配当要求した者である。

(七)  よつて、控訴人両名及び参加人は、被控訴人に対し、それぞれ別紙第二表記載の各自の賠償金取得額及びこれに対する、控訴人両名については訴状送達の翌日である昭和四八年一〇月九日から、参加人については参加申立書送達の翌日である昭和四九年五月一七日から、各完済にいたるまで各年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める。

(なお、控訴人両名の本件における訴訟上の請求の金額は、金八三二、七〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の遅延損害金を求めるものであるが、当審にいたりいずれも控訴における不服申立の限度を、前記金員の支払を求める限度にとどめたものである。)

二、請求原因に対する被控訴人の認否

(一)  請求原因第(一)ないし(五)項の事実を認める。

(二)  請求原因第(六)項の事実中、被控訴人において民事訴訟法六八八条六項の規定により不足額等として金四三二、七〇〇円を負担すべき義務の発生したこと、及び別紙第一表、第三表記載のとおり五名の債権者が居て、その各債権額が右各表記載のとおりであることは認めるが、その余の主張を争う。

三、被控訴人の抗弁

前記被控訴人の負担すべき不足額は、本来別紙第三表記載のとおり分配されるべきである。ところが、参加人は控訴人らとの間の静岡地方裁判所昭和四八年(ワ)第三一四号配当異議事件において和解を成立させ、同訴訟を取下げることを条件に控訴人らに対し幾何かの金員を交付した。したがつて、その和解の趣旨は、本件不動産競売事件について控訴人両名と参加人の両者とももはや一切の請求をしないことの和解であり、当然参加人は被控訴人に対する競落不足額の請求権も放棄したのであつて、また、控訴人両名も右参加人の取得すべき分七一、六三三円について請求権を有するものではない。

四、右抗弁に対する控訴人両名の認否

和解の成立は認めるが、その趣旨に関する被控訴人の主張を否認する。

第四  証拠関係《省略》

理由

一請求原因第(一)ないし(五)項の各事実、及び同第(六)項の事実中再競売の手続費用が三五、七〇〇円であることは、各当事者間に争いがない。

二すると、控訴人ら主張の計算どおり、被控訴人は、民事訴訟法六八八条第六項にいわゆる「不足ノ額及ヒ手続ノ費用」として金四三二、七〇〇円を負担すべきことが明らかである(以下、これを負担金という)。

三ところで、民事訴訟法六八八条六項によつて前競落人をして負担金を負担させる所以は、競落代金の減少によつて不利益を受ける者をしてその損失の補償を得させるものに外ならないから、その負担金に対する請求権は、その受くべかりし利益を喪失した者が、その喪失の限度順位においてこれを取得するものであるといわなければならない。したがつて、これを配当要求債権者について言えば、前の競落においてその競落期日の終るまでに配当の要求をした債権者は、その競落人が実際に競落代金を支払つていれば高い代価による配当を受け得た筈であるから、右の意味の損失を蒙る者に該るのであるけれども、その後再競売における期日までに配当要求をした債権者は、その後実施される配当には与ることができると解すべきも、前記の高代価によつて実施される筈であつた配当には全く与り得なかつた者であるから、前競落人が現実に競落代金を支払わなかつたために再競売になつたことについて何ら損失を蒙つた者ではなく、したがつて負担金に対する請求権を取得するいわれもない。

そこで、本件において控訴人両名及び参加人ならびに外一名の債権者(協和商事株式会社)が執行申立債権者ないし最初の競落期日の終りまでに配当要求をした債権者であることは、いずれも当事者間に争いがないが、〈証拠〉によれば、もう一人の配当要求債権者である望月啓司は、再競売期日の三日前である昭和四八年七月二三日、すなわち被控訴人が競落をした期日である昭和四八年五月二三日以降に、配当要求を申立てたものであることが認められるから、右望月は前記負担金に対する請求権を取得する者ではなく、結局同人を除いた前記四名の債権者が平等の立場で各債権額に応じて負担金に対する請求権を取得したものである。そして、右四名の各債権額が別紙第一表合計欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、被控訴人の抗弁は和解の趣旨につきその主張を認めるべき何らの証拠もないので、その右各債権額に応じて按分して被控訴人の負担金に対する各取得額を算出すると、控訴人ら及び参加人主張の別紙第二表記載の金額のとおりであることが認められる。

また、控訴人両名の訴状送達の翌日が昭和四八年一〇月九日であること、参加人の参加申立書送達の翌日が昭和四九年五月一七日であることは、いずれも記録上明らかである。

四すると、控訴人小沢の請求は金七二、六四七円、控訴人佐藤の請求は金一二〇、〇九九円、及びいずれも右各金額に対する昭和四八年一〇月九日から完済まで民事法定利率による遅延損害金を求める限度で理由があり、その限度で認容し、それを超える部分を棄却すべきであるが、原判決はこれと判断を異にしているので、これを当裁判所の右判断のとおり変更し、また当審における参加人の請求はすべて理由があり正当であるからこれを認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(久利馨 舘忠彦 安井章)

(別紙)第一ないし第三表《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例